中小企業の製造業がブランド施策の成果を確かめるために必要な視点と手法

2025.01.25

デザイン / ブランディング

なぜ製造業でもブランド施策が必要なのか

中小企業で製造業を営む企業が自社ブランドを確立しようと考えたとき、多くの場合、その効果をどのように測ればよいのか頭を悩ませることがあります。
その理由は、「ブランド」というものが数値化しにくい性質を持っているからにほかなりません。
けれども、どれだけ測定が難しくとも、結果を追えないまま施策を打ち続けるのはリスクが高いものです。
なぜなら、ブランド構築には人的リソースや時間、予算などの経営資源を要するため、その効果が見えないと社内外から不安の声が上がりやすいからです。
しかし実際には、ブランドの成果を定量・定性の両面から捉える方法が存在するのです。
それを理解すれば、自社のブランド施策が本当に価値を生み出しているのか確かめながら、より戦略的にマーケティングや経営判断を進めることができるようになります。

ブランド施策の目的を定めることの重要性

ブランド施策を評価する前に、まず「何のためにその施策を行うのか」を明確にしなければなりません。
例えば、「自社製品の認知度を高めること」をメインのゴールとする場合と、「自社の技術力や品質に対する信頼感を醸成すること」を優先する場合では、成果を測るための着眼点が変わってきます。
また、製造業のビジネスモデルにはBtoBが多いという特徴があり、最終的な購買判断に複数のステークホルダーが関わることもしばしばです。
そのため、「実際の商談につながるまでの認知育成を目指すブランド施策」や「既存の取引先との関係を強化するための施策」など、施策ごとにゴールが異なるケースがあることにも注意が必要です。
したがって、最初に「自社はどの顧客層の、どのような課題を解決し、どう評価されたいのか」を定義することで、後々の成果測定がスムーズに行えるのです。

定量調査によるブランド成果の可視化

ブランドの成果を測る際に、多くの企業が取り入れるのがアンケート調査などの定量調査です。
なぜなら、回答者数や項目ごとに数値が出るため、施策の変化に伴うブランド認知度・好意度の推移を比較的客観的に捉えやすくなるからです。
特に製造業向けのアンケートでは、実際の製品や技術に対して「どんな強みを感じたか」「他社と比べて優れている点はどこか」「品質面で不安はないか」といった具体的な質問を盛り込みます。
こうすることで、ブランドの抽象的なイメージだけでなく、自社の強みや課題を浮き彫りにするデータが手に入ります。
もっとも、大規模なアンケートを実施するにはコストや手間がかかり、回答数が少なければ統計的な有意性を確保しづらいという課題も出てきます。
とはいえ、小規模でも定期的に実施すれば、「前年よりも〇〇%の人が自社ブランドを知っていた」「製造工程に対する安心感を持った人が増えた」など、長期的なトレンドをつかむ糸口になります。
無理のない範囲で継続的にデータを蓄積し、結果を見比べることが大切なのです。

定性調査で掴む“生の声”とブランドイメージの裏側

アンケート調査と並行して活用すべきなのが、取引先へのインタビューや営業担当者へのヒアリングなど、定性情報を得るための聞き取り調査です。
なぜなら、数字には表れにくいリアルな感情や印象を知ることで、ブランド施策の背景にある問題点や意外な強みを発見できるからです。
例えば、「実はデザイン性よりも納期対応の柔軟さに魅力を感じている」「特許技術をもっと打ち出してほしい」といった顧客の本音は、単なる数値の調査では見落とされがちです。
また、営業担当者は日常的に顧客とやり取りしているため、「どんな資料や訴求ポイントが効果的だったのか」「何が決め手になって商談に至ったのか」などの貴重な知見を持っています。
そこから、マーケティング部門が想定していたブランドイメージと、現場での認識との間にあるギャップが見えてくる場合もあります。
そうしたズレを修正し、ブランドコンセプトやコミュニケーションの方向性を磨き込むのは、中小企業の製造業がブランド施策を成功させるうえで欠かせないプロセスなのです。

オンラインの動向からブランド認知の高まりを探る

製造業でも、ホームページやSNSを活用して情報発信を行う企業が増えています。
そのため、オンラインでの評価やアクセス解析を行うことで、ブランド施策の効果をある程度測ることが可能です。
具体的には、ホームページのアクセス数や滞在時間、問い合わせフォームの送信数などをチェックし、展示会後や広告出稿後に変化が生まれているかを確認できます。
また、SNSで自社の製品名やブランド名が言及される回数をモニタリングすれば、顧客や業界関係者のあいだで話題が広がっているか否かを把握できます。
さらに、自社名や製品名の検索ボリュームの増加を追う方法も有効です。
特に製造業の場合、独自の技術解説や製品活用事例といった専門性の高いコンテンツを充実させておけば、検索結果からの流入が伸びることが多く、その問い合わせ内容を分析することでブランドへの期待や疑問点を把握することができます。
オンライン上での反応は即時性が高いので、ブランド認知の変化を早期に捉える目安となるのです。

展示会・商談会で見るブランド認知度の変化

製造業の企業が自社ブランドを高めるために、展示会や商談会への出展は欠かせない戦略のひとつです。
実際に製品を見てもらい、技術者同士が直接話をする機会は、ブランドの信用度やイメージを大きく左右する要素になります。
そこで、名刺交換数やブースへの来訪者数、実際に商談につながった件数を記録するのと同時に、「どのようなきっかけでブースを訪れたのか」を尋ねることが重要です。
もし「自社名を聞いて興味を持った」「あの製品の評判を聞いたことがある」といった声が増えていれば、それはブランド認知の向上を示す有力なデータといえます。
継続的に同じ展示会へ出展して、前年との数値を比較すれば、ブランドが少しずつ浸透しているかどうかを推測しやすくなります。
そして、展示会のパンフレットや名刺などにブランドロゴやキャッチフレーズを統一的に使用していれば、リピート参加している来場者に「去年も見た会社だ」と思い出してもらえる可能性が高まり、その積み重ねでブランドイメージが強固になるわけです。

ブランドロイヤルティを確かめるための指標

ブランド施策の目的が新規顧客の獲得だけに限られるわけではありません。
製造業では一度取引が決まると長期的な契約や定期発注が続くことが多いため、既存顧客や取引先との関係をどれだけ深められているかも大きなテーマになります。
ここで注目すべきなのが、再注文率やリピート率、取引先からの紹介件数といった指標です。
ブランドロイヤルティが高まれば、「他社へ乗り換えよう」という発想が起きにくくなるのはもちろん、取引先が「この会社なら安心」と周囲に紹介することも増えていきます。
その結果、ブランドの好評を背景に思わぬ形で案件が舞い込むこともあるため、ロイヤルティ指標の推移は重要なブランド評価ポイントと言えるのです。
さらに、「契約更新時にどんな不安や要望があったか」をヒアリングするのも、信頼関係がどれほど築けているかを知るうえで有効な手段になります。

社内への浸透度合いがブランド施策を加速させる

ブランドは対外的なイメージだけでなく、社内の意識や行動をも左右します。
なぜなら、現場で働く社員が自社のブランドコンセプトや強みをどの程度理解し、誇りを持って語れるかによって、取引先とのコミュニケーションの質が変わるからです。
社内アンケートや意見交換会を行えば、「ブランドに対する共感度」や「他社との差別化ポイントの理解度」を把握できます。
もし社員がブランドについて話すときに一貫性がなく、メッセージがバラバラであれば、まだブランドが十分に浸透しているとは言えません。
逆に、社員が自発的に「うちの製品は技術が強みだ」「品質管理にこだわっているんだ」と誇らしげに語れるようになれば、その熱意が外部に自然と伝わり、ブランド評価の向上に直結していきます。
最終的には、社内でブランドの意義を共有し、全員が同じ方向を向いている状態こそが、ブランド施策を成功へ導く強い推進力になるのです。

客観的評価でブランド価値を高める

いくら自社が「高品質だ」「独自技術がある」とアピールしても、客観的に評価されていなければ説得力に欠ける可能性があります。
そこで有効なのが、業界メディアへの取材や記事掲載、専門家や業界団体からの認定・受賞などを通じて第三者の評価を得ることです。
もし認証や賞を獲得できたら、その情報をプレスリリースとして配信したり、ホームページやSNSで広く告知したりして、ブランド価値をさらに高めましょう。
こうした外部評価は取引先にとっても「客観的に見ても信用に値する企業だ」という安心材料になるため、新規取引や大型案件の獲得につながる可能性が高まります。
また、「ニュースサイトに掲載された」「業界紙に技術の特集記事を書いてもらった」という事実を社内外で共有すれば、社員のモチベーションアップにも効果が期待できます。
このように、第三者評価を得ながらブランド施策を前に進めることが、中小企業の製造業にとってはとても大切なポイントなのです。

Web上でブランドが浸透しているかを調査する具体的な方法

オンラインでの反応を追うといっても、単にホームページのアクセス数やSNSのフォロワー数を見るだけでは十分な判断が難しい場合があります。
そこで、より踏み込んだ形で「ブランドの浸透」を見極めるための具体的な手法を整理してみましょう。

まず一つ目は、
〈1〉ブランド言及モニタリングツールの活用
です。
世の中には「ソーシャルリスニングツール」と呼ばれるサービスがあり、SNSやブログ、ニュースサイトなどの膨大なデータの中から、自社名や製品名、関連キーワードがどれだけ言及されているかを自動で拾ってくれます。
これを活用すれば、「ポジティブな文脈で言及されているか」「ネガティブなクレームや批判は増えていないか」など、言及の量と質を総合的に把握できるのです。
製造業の場合は一般消費者向けと比べて言及数そのものが少ない傾向にあるかもしれませんが、競合や業界の動向もあわせてチェックすれば、自社がどの程度関心を集めているか見極める材料になります。

続いて二つ目は、
〈2〉検索エンジンでのシェア・オブ・ボイス(Share of Voice)を測る
という方法です。
これは、自社のブランド名や製品名、あるいはコアとなるキーワードで検索したときに、自社サイトや関連ページがどの程度上位に表示されているか、他社との比較で検索結果に占める割合がどれくらいあるかを測るものです。
製造業であれば、例えば「ステンレス加工 技術力」などの複合キーワードで検索したとき、検索結果の上位10件のうち何件が自社関連のページなのかを定期的に確認するとよいでしょう。
上位表示の割合が増えていれば、それだけブランド関連の情報が検索エンジン上で目に留まりやすくなり、ブランド浸透の手応えを実感できます。

三つ目は、
〈3〉オンラインアンケートやヒアリングの実施
です。
これは前述の定量調査や定性調査を、よりウェブに特化した形で行うイメージに近いでしょう。
例えば、自社サイトに訪れたユーザーやオンラインセミナーに参加した人へ「自社ブランドや製品をどのように知ったか」「どんな印象を持ったか」をウェブフォームで尋ねる方法があります。
限られたサンプル数になりがちではありますが、オンラインでブランドを知った人の経路や評価を正確に把握できれば、その後のコンテンツ強化や広告運用にも活きてきます。

これらの方法を組み合わせることで、単純なアクセス解析だけでは見えてこないブランド浸透の度合いを、より立体的に捉えることができるのです。

成果の見える化とレポーティングの重要性

ここまで紹介してきたアンケートやインタビュー、アクセス解析、展示会の記録、社内アンケート、客観的評価、そしてブランド言及数や検索エンジン上のシェア・オブ・ボイスなどを組み合わせると、多角的な評価が可能になります。
ただし、これらをバラバラに保存してしまうと社内共有が難しくなるため、定期的にレポートやプレゼンを実施し、ブランドの成長がどう進んでいるのかを“見える化”することが欠かせません。
例えば、四半期ごとに「認知度アンケートの結果」「ホームページのアクセス推移」「展示会の問い合わせ数」「SNSでのポジティブ言及率」などをまとめ、変化の要因を分析します。
「技術力が評価されている一方、納期対応に不安を持たれている」などの課題が浮かび上がれば、次の施策でそこを強化するといった具体的な打ち手を立てやすくなります。
また、定期レポートを経営陣や現場リーダーに共有することで、ブランドへの投資に対して社内の理解が深まり、新たな施策の意思決定がよりスムーズになる可能性が高まります。

ブランド施策の成果測定を通じて貢献する

製造業の中小企業がブランドを構築する意義は、単に企業名を知ってもらうだけではありません。
それは、自社の技術力や品質へのこだわり、社員の想いや誠実な姿勢を市場へ正しく伝え、企業を長期的に支える“無形資産”を育てる行為でもあります。
しかし、ブランドの成果は目に見えにくい部分が多いため、途中で挫折しそうになることも少なくありません。
だからこそ、本稿で紹介したような多面的な視点と指標を用い、データとリアルな声をバランスよく収集・分析しながら成果を確認していく姿勢が重要となってきます。
その結果、経営者や社員、取引先を含めた関係者がブランドの価値を再認識し、企業全体としての結束力を高めることができます。
長い目で見れば、中小企業の製造業だからこそ発揮できる技術力や職人技をブランドに乗せて発信することで、大手には真似できない独自のポジションを確立していくことが可能です。
最終的には、価格競争に巻き込まれない強い企業体質を築き、地域や業界にとってなくてはならない存在になる道が開けてくるはずです。
継続的なブランド施策と成果測定を丁寧に繰り返しながら、小さな成功を積み重ね、成長に貢献できたらと思っております。

著者情報

株式会社kumu|兵庫県西宮市のデザイン&マーケティング会社

中町勇輝Nakamachi Yuki

大阪府高槻市出身。京都造形芸術大学出身。大学時代に滞在した鯖江市での「いい商品が売れない」ことへのモヤモヤを解決するため、新卒で中小企業のデザイン経営を推進する「株式会社SASI」に入社。デザインとマーケティングの目線でクライアントのブランド支援を行う。目の前の売上と中期的なブランディングの両軸を踏まえた支援を意識しながら成長に貢献。

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